炭水化物=悪ではない!血糖スパイクを防ぐ秋の食卓の工夫

秋は食欲が増す季節。さつまいもや栗、果物など、旬の味覚が食卓を彩ります。
しかし、糖尿病やその予備群の方にとっては「血糖値が気になる季節」でもあります。
最近注目されている「血糖スパイク(食後高血糖)」は、知らず知らずのうちに血管を傷つけ、動脈硬化や糖尿病のリスクを高めることも。
炭水化物は「ダイエットの敵」と思われがちですが、実は体にとって大切なエネルギー源。
今回は、秋の食べ物と血糖値の関係、特に人気の「さつまいも」について、医療機関の視点からわかりやすく解説します。
食欲の秋、血糖値に要注意?—季節と体の変化
秋は、気温の低下や日照時間の短縮により、私たちの体にさまざまな変化が起こる季節です。
特に「食欲の秋」と呼ばれるように、食欲が自然と高まりやすくなります。これは、寒さに備えてエネルギーを蓄えようとする本能的な反応に加え、セロトニンやメラトニンなどの自律神経やホルモンの変化が関係しています。
また、秋は旬の食材が豊富で、さつまいも・栗・柿・ぶどうなど、糖質を多く含む食べ物が多く登場します。これらは栄養価が高く、満足感も得られる一方で、血糖値が急激に上がりやすい食材でもあります。
特に糖尿病やその予備群の方にとっては、こうした季節性の食習慣が血糖値の乱れやすさにつながるリスクとなります。
夏場に比べて運動量が減りやすいことも重なり、食後高血糖(血糖スパイク)が起こりやすくなるのです。
血糖スパイクとは?—食後高血糖のしくみとリスク
「血糖スパイク」とは、食後に血糖値が急激に上昇する現象を指します。
通常、食事をすると血糖値はゆるやかに上昇し、インスリンの働きによって一定時間内に元の値へと戻ります。
しかし、炭水化物や糖質を多く含む食事を短時間で摂取した場合、血糖値が急激に上昇(スパイク)し、インスリンの分泌が追いつかなくなることがあります。
この一時的な高血糖は、繰り返されることで以下のようなリスクが生じます:
- 血管内皮へのダメージ:高血糖状態が血管を傷つけ、動脈硬化の原因に
- 糖尿病の進行:インスリンの効きが悪くなる「インスリン抵抗性」が進行
- 認知機能や集中力の低下:血糖値の乱高下が脳にも影響
- 食後の眠気・だるさ:血糖値の急変動による自律神経の乱れ
特に糖尿病予備群や高齢者では、食後30〜60分で血糖値が140mg/dLを超えるケースもあり、これが2時間後まで続く場合は医療的な介入が必要です。
食後血糖値の比較表(正常〜糖尿病)
判定区分 | 食後1時間の血糖値 | 食後2時間の血糖値 | コメント |
正常 | ~140mg/dL未満 | ~120mg/dL未満 | インスリンが適切に働き、血糖値がゆるやかに上昇・下降する |
境界型(糖尿病予備群) | 140〜180mg/dL | 120〜140mg/dL | インスリンの効きが弱まり、血糖値がやや高めに推移 |
糖尿病の可能性あり | 180mg/dL以上 | 140mg/dL以上 | インスリン分泌や作用に異常があり、血糖値が高く持続する |
※数値は空腹時血糖値が正常である場合の目安です。個人差がありますので、気になる方は医療機関での検査をおすすめします。
血糖スパイクは、見た目ではわかりにくい「血管のダメージ」を引き起こすため、**“沈黙のリスク”**とも言われます。
医療機関としては、こうした血糖の変動を早期に捉え、食事や生活習慣の改善を通じて予防・管理することが重要です。
炭水化物は本当に“悪者”?—誤解と正しい役割
「炭水化物=糖質=太る原因」と思われがちですが、実際には炭水化物は糖質+食物繊維で構成されており、体にとって欠かせない栄養素です。
糖質は脳や筋肉のエネルギー源となり、食物繊維は腸内環境を整え、血糖値の上昇を緩やかにする働きがあります。
問題となるのは、炭水化物の「種類」と「摂取量」です。
特に、甘くない糖質(白ごはん・パン・麺類など)は主食として習慣的に摂取されるため、味覚的な満足感が得られにくく、結果として“食べすぎやすい”傾向があります。
一方、甘い糖質(ケーキ・ジュースなど)は味覚で満足しやすく、自然と摂取量が制限されることもあります。
実際の糖質量を比較すると、以下のような違いがあります。
甘い糖質 vs 甘くない糖質—糖質量と“食べすぎやすさ”の比較
食品名 | 1食あたりの 目安量 | 糖質量(g) | 甘さの有無 | 食べすぎやすさ | コメント |
ケーキ(ショートケーキ) | 約60g(1切れ) | 約30g | 甘い | △ (満足感あり) | 甘みが強く、少量で満足しやすい |
白ごはん | 約150g(1膳) | 約55g | 甘くない | ◎ (主食として 習慣的) | 食事の中心になり、量を意識しにくい |
食パン (6枚切り) | 約60g(1枚) | 約26g | 甘くない | ○ | 朝食で複数枚食べることもあり注意 |
うどん(ゆで) | 約240g(1玉) | 約50g | 甘くない | ◎ | つるっと食べやすく、満腹感が遅れる |
バナナ(中1本) | 約100g | 約22g | 甘い | △ | 甘みがあるが、1本で満足しやすい |
さつまいも (中1本) | 約150g | 約40g | やや甘い | ○ | 食物繊維が多く、満腹感は得られやすい |
※糖質量は文部科学省「日本食品標準成分表2020年版(八訂)」を参考にした概算です。 このように、甘くない糖質ほど“量を食べやすく”、結果として血糖値を大きく上げる原因になりやすいことがわかります。
炭水化物を完全に避けるのではなく、種類・量・食べ方を意識することが、血糖スパイクの予防につながります。
血糖値が上がりやすい食べ物と食べ方の工夫
血糖値の上昇に影響するのは、食材の種類だけでなく、食べ方にもあります。
その指標としてよく使われるのが「GI(グリセミック・インデックス)」です。
GIとは?
GIとは「グリセミック・インデックス(Glycemic Index)」の略で、食後の血糖値の上昇度合いを数値化したものです。
ブドウ糖を100としたとき、ある食品を食べた後の血糖値の上昇スピードを相対的に示します。
GI値の分類 | 血糖値への影響 | 食品例 |
高GI(70以上) | 急激に上昇しやすい | 白米、食パン、じゃがいも、うどん |
中GI(56〜69) | やや上昇しやすい | さつまいも、バナナ、パスタ |
低GI(55以下) | 緩やかに上昇する | 玄米、そば、りんご、ヨーグルト |
GI値が高い食品ほど血糖スパイクを起こしやすく、低GI食品は血糖値の上昇が緩やかで、糖尿病予防に適しています。
食べ方の工夫で血糖値は変わる
GI値だけでなく、食べる順番や調理法、食後の過ごし方も血糖値に影響します。
- 食べる順番:野菜 → たんぱく質 → 炭水化物の順で食べると、血糖値の急上昇を防げます
- 調理法:蒸す・焼く・冷ますことでGI値が下がることも(例:冷やごはん、冷やしさつまいも)
- 食後の軽い運動:食後15〜30分の散歩は、血糖値のコントロールに効果的
食後の血糖値を安定させるには、食材の選び方だけでなく、食べ方の順番やタイミングも大切です。
👉 厚生労働省|健康づくりサポートネット|栄養と疾患予防
秋の味覚「さつまいも」はどうなの?
さつまいもは、秋になるとスーパーやコンビニでも多く見かける人気食材。
焼き芋や蒸しパン、干し芋など、さまざまな形で楽しめるうえ、自然な甘みと満足感があり、健康的なイメージを持つ方も多いでしょう。
しかし、さつまいもは糖質量が多く、血糖値を上げやすい食品でもあります。
中サイズ1本(約150g)には約40gの糖質が含まれており、白ごはん1膳(約55g)に近い量です。
とはいえ、さつまいもには食物繊維が豊富でGI値が中程度(約55〜60)とされており、食べ方を工夫することで血糖値の急上昇を防ぐことができます。
さつまいもを血糖値と上手に付き合うための工夫
食べ方 | 血糖値への影響 | ポイント |
焼き芋(熱々) | やや高め | 甘みが強く、食べすぎに注意。皮付きで食物繊維を補うと◎ |
冷やし焼き芋 | 緩やか | 冷ますことで「レジスタントスターチ」が増え、血糖値の上昇が抑えられる |
干し芋 | 高め | 水分が少なく糖質が凝縮。少量を意識して |
蒸しパン(さつまいも入り) | 高め | 小麦粉+糖質で血糖値が上がりやすい。野菜やたんぱく質と一緒に摂ると◎ |
皮付き蒸し芋 | 中程度 | 食物繊維が豊富で満腹感あり。ゆっくり食べると効果的 |
※レジスタントスターチとは、消化されにくいでんぷんの一種で、食物繊維のような働きをします。
さつまいもは、調理法や食べるタイミングによって血糖値への影響が大きく変わります。
例えば、冷やして食べる・皮付きで食べる・食事の最後に食べるなどの工夫で、血糖スパイクを防ぐことができます。
アドバイス—「抜く」より「整える」食習慣へ
炭水化物は、私たちの体にとって大切なエネルギー源です。
「血糖値が気になるから」と極端に抜いてしまうと、低血糖や栄養バランスの乱れを招き、かえって体調を崩す原因にもなります。
大切なのは、「抜く」のではなく「整える」こと。
炭水化物の種類や量、食べる順番や調理法を意識することで、血糖値の安定につながり、日常生活の質も向上します。
気になる症状がある方や、食後の眠気・だるさが続く方は、医療機関での相談もおすすめです。
各務原リハビリテーション病院では、内科と小児科の診療を初めての方でもご予約なしで受けていただけます。
お子さまの健康管理から、大人の生活習慣病予防まで、幅広い年代の方々が健康を維持できるようサポートしております。
糖尿病予防や日常の体調管理について気になることがございましたら、ぜひお気軽にご相談ください。
また、当院では間歇スキャン式持続血糖測定器(FGM)「FreeStyleリブレ2」を導入しております。糖尿病専門医が在籍する当院内科にご相談ください。
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お問い合わせ:058-384-8485(8:30~17:15)
監修:各務原リハビリテーション病院長 磯野 倫夫
執筆:医療法人社団 誠道会 広報担当